株式の家族信託|その株式、目的は「資産管理」?それとも「事業承継」?

「親が認知症になったら、証券口座にある株式はどうなるんだろう…」「自分の会社をスムーズに子どもへ引き継ぎたいけど、何から手をつければいいのか…」

大切にされてきた株式という資産を前に、このような不安を抱えている方は少なくありません。ひと言で「株式」といっても、その目的によって悩みは大きく二つに分かれます。

  • 親の認知症に備えた「上場株式」の資産管理
  • 会社の将来を見据えた「非上場株式(自社株)」の事業承継

もし、親御さんが認知症などで判断能力を失ってしまうと、証券口座は凍結され、たとえご家族であっても株式の売却や解約ができなくなってしまいます。介護費用が必要になったときに、大切な資産が塩漬けになってしまうのです。一方で、会社の経営者様にとっては、自社の株式をいつ、どのように後継者へ渡すかは、会社の未来を左右する重大な問題でしょう。

この記事では、これら二つの全く異なる悩みを解決する有効な選択肢として「家族信託」に焦点を当てます。家族信託があなたの状況でどのように役立つのか、手続きの具体的な流れから税金の話、そして専門家だからこそ知っている注意点まで、わかりやすく解説していきます。この記事を読むことで、ご自身のケースで検討すべきポイントを整理しやすくなります。
元気なうちから備えておく認知症による財産凍結への対策は、ご家族の未来を守るためにとても重要です。

【目的別】株式の家族信託、2つの活用ケース

それでは、具体的に「資産管理」と「事業承継」という二つの目的別に、家族信託がどのように力を発揮するのか見ていきましょう。なぜ他の方法ではなく、家族信託が有効な選択肢となるのか、そのメリットを具体的に解説します。ご自身の状況と照らし合わせながら、家族信託の活用イメージを掴んでみてください。

ケース1:親の認知症に備える「上場株式」の資産管理信託

親御さんが保有している上場株式や投資信託。これらは、認知症によって判断能力が低下すると「資産凍結」のリスクに直面します。一度凍結されてしまうと、家庭裁判所が選任する成年後見人しか財産を動かせなくなります。

しかし、成年後見制度はあくまでご本人の財産を「守る」ための制度。株式のような価格変動リスクのある資産は、原則として売却・現金化され、積極的な運用やタイミングを見計らった売却は極めて困難になります。「もう少し待てば株価が上がるかもしれない」と思っても、後見人の判断で売却されてしまう可能性があるのです。

その点、家族信託は大きな強みを発揮します。元気なうちに信頼できるお子さんなどを受託者として信託契約を結んでおけば、万が一親御さんの判断能力が低下した後でも、受託者が柔軟に株式を管理・運用・売却できます。例えば、「親の介護費用が必要になったタイミングで、一部の株式を売却して充てる」といった、ご家族の希望に沿った臨機応変な対応が可能になるのです。これは、成年後見制度にはない家族信託の大きなメリットと言えるでしょう。

認知症による資産凍結のリスクと、家族信託で柔軟な株式管理が可能になるメリットを比較した図解。

ケース2:円滑な事業承継を実現する「非上場株式」の信託

中小企業の経営者様にとって、自社株(非上場株式)は会社そのものであり、その承継は事業の存続に関わる最重要課題です。生前贈与や遺言といった方法もありますが、家族信託にはそれらにはない独自のメリットがあります。

最大の特長は、「議決権」と「財産権(配当などを受け取る権利)」を分離できる点です。例えば、こんな設計が可能です。

  • 議決権(経営権):後継者である子ども(受託者)に移し、会社の経営を任せる。
  • 財産権(受益権):当面は自分(委託者=受益者)が持ち続け、配当を受け取り生活費などに充てる。

この仕組みを使えば、現経営者は会長職として経営を見守りつつ、生活の安定を確保しながら、後継者にスムーズに経営のバトンを渡すことができます。生前贈与のように完全に手放してしまう不安を抑えつつ、遺言よりも早い段階で経営権の移転を進められる場合があります。段階的で円滑な事業承継を検討する上で、家族信託は有効な選択肢の一つです。
万が一、経営者が亡くなった場合の相続手続きは複雑になるため、事前の対策が不可欠です。

株式の家族信託|手続きの全体像と流れ

株式の家族信託は、不動産や預貯金の信託とは少し毛色が異なります。特に「証券会社」とのやり取りが、手続きを成功させるための重要なカギを握ります。ここでは、具体的な手続きの流れを4つのステップに分けて見ていきましょう。

STEP1:信託契約の内容を固める【司法書士と相談】

すべての始まりは、信託契約の設計です。これは家族信託の内容を決める重要なステップです。

  • 誰が(委託者・受託者・受益者)
  • どの株式を(信託財産)
  • 何のために(信託の目的)
  • どのように管理し(受託者の権限)
  • 最終的に誰に渡すのか(信託の終了事由と帰属権利者)

これらの点を、ご家族の状況や将来の見通しに合わせて、一つひとつ丁寧に決めていく必要があります。特に株式信託の場合、後述する証券会社の手続きをクリアできるような契約書を作成しなければなりません。自己判断で作成すると、いざ証券会社に持ち込んでも「この内容では受け付けられません」と断られてしまうケースも少なくないのです。まずは専門家である司法書士にご相談いただき、実務に対応できる契約内容を整理することが重要です。
より詳しい契約書の作り方については、「家族信託契約書の作成ポイント」で解説しています。

STEP2:証券会社への事前確認と信託口口座の開設

ここは株式信託で特に注意が必要な手続きです。残念ながら、すべての証券会社が家族信託に対応しているわけではありません。対応している証券会社(例えば、野村證券、大和証券、楽天証券など一部の会社)でも、「信託口口座」の開設には厳しい社内審査があります。

具体的には、STEP1で作成した信託契約書の案を事前に証券会社に提出し、法務部門などのチェックを受ける必要があります。このプロセスには数週間から1ヶ月以上かかることも珍しくありません。証券会社から契約内容の修正を求められることもあり、専門家と証券会社との間で緊密な連携が不可欠となります。このステップを乗り越えなければ、計画そのものが頓挫してしまう可能性もあるため、極めて重要なプロセスです。

STEP3:信託契約書を公正証書で作成する

証券会社との事前協議が整ったら、信託契約書を「公正証書」という公的な文書で作成します。私人間で作成した契約書だけでは、金融機関は手続きに応じてくれないのが実情です。公正証書にすることで、契約内容の真正性が公的に担保され、証券会社も安心して信託口口座の開設や名義変更手続きに応じてくれます。

この手続きは、公証役場という場所で公証人の前で行います。私たち司法書士は、公証人との事前の打ち合わせや必要書類の準備、当日の立ち会いまで、必要に応じてサポートいたします。

司法書士と相談しながら、公正証書による信託契約書の作成準備を進めている家族のイラスト。

STEP4:株式の名義変更・口座移管手続き

公正証書で信託契約を締結し、信託口口座が開設できたら、いよいよ最終ステップです。信託する株式の名義を、委託者(親など)から受託者(子など)の信託口口座へ移します。

  • 上場株式の場合:委託者個人の証券口座から、新しく開設した受託者の信託口口座へ「口座移管」の手続きを行います。
  • 非上場株式の場合:会社に対して「株主名簿の書換」を請求し、株主名簿上の名義を「委託者A」から「受託者B」へと変更します。

この名義変更が完了して初めて、家族信託は正式にスタートします。これらの手続きは、必ず委託者ご本人の判断能力がはっきりしているうちに行う必要があります。証券会社の相続手続きとは異なる、生前の重要な手続きです。

知っておきたい株式信託の税金の話

「信託をすると、何か特別な税金がかかるのでは?」とご心配される方も多いですが、ご安心ください。家族信託の税金には「利益を得る人(受益者)に課税される」というシンプルな大原則(受益者課税の原則)があります。この原則さえ押さえておけば、むやみに怖がる必要はありません。どのタイミングで、誰に、どんな税金がかかるのかを見ていきましょう。

信託設定時:贈与税はかかるのか?

最もよくあるご質問が、信託を設定したときの贈与税です。結論から言うと、ほとんどのケースで贈与税はかかりません

家族信託では、財産を託す「委託者」と、信託から利益を得る「受益者」が同じ人(=委託者)であることが一般的です。これを「自益信託」と呼びます。例えば、「父(委託者)が、自分の老後のために、長男(受託者)に財産を託し、その利益は父(受益者)が受け取る」というケースです。

この場合、財産の名義は長男に移りますが、実質的な利益を得る人は父のまま変わりません。財産の価値が誰かに無償で移転したわけではないので、贈与税の課税対象にはならないのです。

ただし、委託者と受益者が異なる「他益信託」(例:父が長男に財産を託し、利益は孫が受け取る)の場合は、贈与税の対象となりますので注意が必要です。
より詳しい税金の話は、「家族信託で贈与税はかかる?課税のタイミングと対策を解説」をご覧ください。

信託期間中:配当や売却益にかかる所得税

信託された株式から配当金が出たり、株式を売却した際の利益(譲渡所得)が出たりした場合、それらの利益に対しては所得税がかかります。

ここでも「受益者課税の原則」が適用されます。実際に財産を管理している受託者(子など)ではなく、その利益を受け取る受益者(親など)が納税義務者となります。そのため、受益者はこれらの所得について確定申告を行う必要があります。

株式を家族信託した際の「設定時」「期間中」「終了時」の各タイミングでかかる税金(贈与税・所得税・相続税)の関係性を表した図解。

信託終了時:相続税の対象になる

多くの場合、信託は受益者(当初は親)が亡くなることで終了します。その時点で残っていた信託財産(株式など)は、信託契約であらかじめ定められた人(帰属権利者、多くは子など)に引き継がれます。

このとき、引き継がれた財産は通常の相続財産と同じように扱われ、相続税の課税対象となります。つまり、家族信託をしたからといって、相続税が安くなるわけでも、高くなるわけでもありません。信託をしていなかった場合と同じように、相続税が計算されると理解しておきましょう。
最終的な株式の相続手続きと同様に、税金の観点も重要になります。

参照:国税庁「第3 法人税に関する取扱い」

契約前に必ず確認!株式信託の7つの重要注意点

株式の家族信託は非常に有効な手段ですが、メリットばかりではありません。契約後に「こんなはずではなかった」と後悔しないために、実務上つまずきやすい7つの重要な注意点を押さえておきましょう。これらは専門家のサポートなしでは乗り越えるのが難しいポイントでもあります。

注意点1:信託できる証券会社が限られる

繰り返しになりますが、これは最大の注意点です。すべての証券会社が家族信託に対応しているわけではなく、対応可能な会社でも厳しい審査があります。せっかく完璧な信託契約書を作っても、取引のある証券会社が対応していなければ、予定していた信託手続きを進められない可能性があります。契約準備と並行して、早い段階で証券会社との協議を進めることが不可欠です。

注意点2:特定口座やNISAは利用できない

これは税務上の大きなデメリットです。信託財産を管理する「信託口口座」は、法律上「一般口座」として扱われます。そのため、多くの方が利用している、証券会社が損益計算や納税を代行してくれる「特定口座」は利用できません。また、非課税の恩恵が受けられる「NISA口座」で保有している株式を信託することもできません。信託した株式で利益が出た場合は、ご自身で損益を計算し、確定申告をする手間が発生します。

注意点3:損益通算ができない

税務上の注意点はもう一つあります。信託した株式の取引で損失が出た場合、その損失を信託していない他の所得(給与所得や、ご自身で保有する他の株式の利益など)と相殺する「損益通算」ができません。信託財産は、あくまで受益者の他の財産とは分別して管理されるためです。これにより、トータルではマイナスなのに税金がかかってしまう、というケースも起こり得ます。

注意点4:株主優待が受けられなくなる可能性

株主優待を楽しみにしている方は注意が必要です。株式の名義が委託者(親)から受託者(子)に変わるため、株主としての保有期間がリセットされてしまいます。もし「1年以上の継続保有」といった条件が付いている株主優待の場合、信託したことで条件を満たさなくなり、優待が受けられなくなる可能性があります。

注意点5:受託者の負担と責任が大きい

財産を預かる受託者には、法律上、重い責任が課せられます。他人の財産を預かる専門家と同じように、細心の注意を払って財産を管理する義務(善管注意義務)や、信託財産の収支を記録した帳簿を作成・保管する義務などがあります。安易に「子どもだから大丈夫だろう」と引き受けてしまうと、後々大きな負担になりかねません。家族間で役割と責任について十分に話し合うことが大切です。
万が一、家族信託の受託者が死亡した場合など、予期せぬ事態への備えも契約に盛り込んでおく必要があります。

注意点6:信託契約は途中で変更しにくい

一度信託契約を結んだ後でも、信託法上は委託者・受託者・受益者の合意などにより変更できる場合があります。ただし、委託者(親)の判断能力が低下してしまった後は、実務上、変更が難しくなることがあります。将来の家族関係の変化や経済状況の変動などをある程度予測し、様々な事態に対応できるような柔軟性のある契約書を、専門家と一緒に作成することが極めて重要になります。
将来を見据えた失敗しない家族信託契約書の作り方には専門的な知識が不可欠です。

注意点7:信託契約終了後の名義変更が別途必要

見落とされがちですが、非常に重要なポイントです。受益者(親)が亡くなって信託が終了しても、信託口口座にある株式の名義は、自動的に相続人(子など)の個人口座に移るわけではありません。信託契約で定められた承継者へ、改めて証券会社で名義変更の手続きを行う必要があります。最後まで手続きが必要だということを覚えておきましょう。

株式の管理、家族信託以外の選択肢は?

ここまで株式の家族信託について詳しく見てきましたが、他の選択肢も知った上で比較検討することが、最適な解決策を見つけるためには大切です。ここでは「代理人届」と「成年後見制度」について、家族信託との違いを明確にしながら解説します。状況によっては、これらの制度が適している場合もあります。
どの認知症による財産凍結への対策が最適か、総合的に判断しましょう。

手軽だが不十分?「代理人届」

証券会社によっては、口座名義人の代理人をあらかじめ届け出ておく「代理人届」という制度があります。手続きが簡単で費用もかからない手軽な方法です。

しかし、これには決定的な弱点があります。代理人が取引できるのは、あくまで口座名義人本人に判断能力があることが前提です。もし、証券会社が「口座名義人が認知症になった」と判断した場合、その瞬間に代理人であっても口座は凍結され、一切の取引ができなくなってしまいます。認知症による資産凍結への根本的な対策にはなり得ない、ということを理解しておく必要があります。

最終手段としての「成年後見制度」

すでにご本人の判断能力が低下してしまった後は、本人の状態に応じて、法定後見制度(後見・保佐・補助)の利用を検討することになります。

この制度を利用すれば、家庭裁判所が選んだ成年後見人が本人に代わって財産の管理を行うため、資産が凍結されることはありません。しかし、その権限はあくまで本人の財産を「保全(守る)」することに限定されます。株式のような価格変動リスクのある資産は、原則として売却・現金化の対象となり、積極的な資産運用やご家族の意向を汲んだ柔軟な売却はできません

また、家庭裁判所への定期的な報告義務や、専門家が後見人に就いた場合の継続的な報酬負担など、ご家族にとっての負担も少なくありません。成年後見制度は、あくまで「最後の手段」と位置づけておくのが賢明でしょう。
親族が成年後見人になる場合でも、裁判所の監督下で厳格な財産管理が求められます。

まとめ|株式の家族信託は専門家との二人三脚が成功のカギ

この記事では、株式の家族信託について、目的別の活用法から手続き、税金、注意点までを詳しく解説してきました。

株式の家族信託は、認知症による資産凍結や円滑な事業承継といった課題への対策として、有効な選択肢の一つです。しかし、同時に、

  • 証券会社ごとに異なる厳しい要件
  • 特定口座やNISAが使えないといった税務上の制約
  • 将来を見越した精緻な契約書の設計

など、専門的な知識と経験がなければ乗り越えられないハードルが数多く存在します。ご自身だけで進めようとすると、想定していなかった手続き上・税務上の問題が生じる可能性もあります。

「自分たちの場合は、どの方法が一番合っているんだろう?」「何から始めたらいいのか分からない…」

そのような疑問や不安を抱えたまま、一人で悩む必要はありません。私たち司法書士法人れみらい事務所は、お客様一人ひとりの状況を丁寧にお伺いし、複数の選択肢を比較しながら対応方法をご提案します。株式という大切な資産を適切に管理・承継するために、専門家に相談しながら具体的な手続きを検討しましょう。
具体的な家族信託の費用についても、丁寧にご説明いたします。まずはお気軽に、当事務所の無料相談をご利用ください。

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