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なぜ今?成年後見制度が約25年ぶりに大改正される背景
ご自身の親御さんのこと、あるいはご自身の将来を考えたとき、「成年後見制度」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。しかし、多くの方が「手続きが複雑そう」「一度利用するとやめられないらしい」「費用がかかり続けるのでは?」といった、漠然とした不安や使いにくさを感じているのではないでしょうか。
実は、その感覚は決して間違いではありません。2000年にスタートした現行の成年後見制度は、高齢化社会を支える重要な仕組みでありながら、利用者の視点からはいくつかの大きな課題を抱えていました。そして今、その課題を乗り越えるため、約25年ぶりとなる大規模な法改正が目前に迫っています。
この改正は、単なる制度のマイナーチェンジではありません。これまで多くの方が感じていた「使いにくさ」の根本原因にメスを入れ、本人の意思を最大限尊重する「オーダーメイド型」の支援へと生まれ変わろうとする、大きな思想転換なのです。
まずは、なぜ制度が大きく変わらなければならなかったのか、その背景にある3つの課題から見ていきましょう。
課題①:一度始まったら終わらない「終身利用」の原則
現行制度の最も大きな課題の一つが、原則として「一度開始すると、ご本人が亡くなるまで終わらない」という終身利用の仕組みです。
例えば、「認知症の親が持つ不動産を売却して、介護施設の入居費用に充てたい」という目的で後見制度を利用したとします。無事に不動産を売却し、目的を達成した後も後見人の役割は終わりません。ご本人が亡くなるまで、財産管理は続き、専門家が後見人であればその報酬も継続的に発生します。
「遺産分割のためだけだったのに…」と思っていても、後見は続いてしまう。この硬直的な仕組みが、利用者やご家族にとって精神的にも経済的にも大きな負担となり、制度利用をためらわせる一因となっていました。
課題②:家族が後見人になりたいのに、なれない現実
「親のことは、一番よく分かっている自分たち家族が見てあげたい」そう考えるのは自然なことです。しかし、実際には家族が後見人に選ばれるケースは年々減少しています。
最高裁判所の統計によれば、成年後見人に選任されるのは弁護士や司法書士などの専門職が約8割を占め、親族が選ばれる割合は2割にも満たないのが現状です。
なぜ、家庭裁判所は親族の選任に慎重なのでしょうか。その背景には、管理する財産が多額で複雑化していることや、他の親族との間で意見が対立するリスク、そして残念ながら後見人による財産の使い込みといった不正を防ぐ目的があります。
家族の想いと、ご本人の財産を確実に守ろうとする司法実務との間に大きなギャップが生まれてしまっているのです。その結果、家族が後見人になるには、いくつかのハードルが存在するのが実情です。
(参照:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」)
課題③:広すぎる権限と、本人の意思が尊重されにくい仕組み
現行の制度には、判断能力の低下レベルに応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。このうち、最も利用者の多い「後見」では、後見人に非常に広範な代理権(財産を管理・処分する権限)が与えられる一方で、ご本人の法律行為(契約など)は日常生活に関するものを除き、取り消しの対象となってしまいます。
これは、ご本人を不利益な契約などから守るための仕組みではありますが、裏を返せば「本人の財産なのに自由に使えない」「自己決定権が大きく損なわれる」という批判にもつながっていました。
実際、この点は国連障害者権利委員会の総括所見において、日本に対し、成年後見制度を含む代行意思決定の枠組みを見直し、本人の意思と選好を尊重する「支援付き意思決定」へ移行することなどが求められており、今回の見直し議論が国際的な人権基準(障害者権利条約)の要請を踏まえる側面もあります。
【2026年改正】成年後見制度はどう変わる?5つの重要ポイント
それでは、これらの課題を踏まえ、新しい成年後見制度は具体的にどのように変わるのでしょうか。2026年1月に法制審議会が取りまとめた要綱案を基に、特に重要な5つのポイントを分かりやすく解説します。この変更は、私たちの未来の選択肢を大きく広げる可能性を秘めています。
①「終身制」を廃止。必要な期間だけの利用が可能に
改正の最大の目玉は、これまで課題だった「終身制」の見直しです。新しい制度では、家庭裁判所の判断によって、必要性がなくなった場合には制度利用を途中で終了できる仕組みが検討されています。
例えば、先ほど挙げた「不動産の売却が終わったら」「遺産分割協議が完了したら」といったように、特定の目的が達成された時点で支援を終えることができるようになるのです。
これにより、制度利用の心理的・経済的なハードルが大きく下がり、「必要な時に、必要な期間だけ」という、より柔軟な利用が期待されます。
②「後見・保佐・補助」の3類型を「補助」に一本化
これまで判断能力のレベルで分けられていた「後見」「保佐」「補助」の3つの類型が廃止され、最も柔軟な「補助」に一本化されます。
これは単なる名称の変更ではありません。これまでは「後見だから、ここまでできる/できない」と画一的に決められていた支援の範囲が、これからはご本人の状態や希望に応じて、必要な支援内容を個別に設計する「オーダーメイド方式」へと大きく転換することを意味します。
この変更の根底には、「本人の残された能力を最大限に活かし、自己決定権を尊重する」という、改正の最も大切な理念があります。

③代理権や取消権の範囲を個別に設定できるように
類型が一本化されることに伴い、支援者(新制度では「補助人」)が持つ権限も、一人ひとりの事情に合わせて柔軟に設定できるようになります。
例えば、「預貯金の管理と介護サービス契約に関する代理権は必要だけど、それ以外のことは自分で決めたい」といったご本人の希望に合わせて、必要な権限だけをピンポイントで付与することが可能になります。
これにより、以前の「後見」類型のように、包括的な代理権によって本人の行為能力が過度に制限される事態を避けることができるようになります。
④後見人(補助人)の交代がしやすくなる
現行制度では、一度選任された後見人を交代させることは簡単ではありませんでした。新しい制度では、本人の利益やニーズの変化に応じて、補助人の交代がより柔軟に行えるようになります。
「補助人と本人の相性がどうしても合わない」「本人の心身の状態が変化し、より専門的な知識を持つ支援が必要になった」といったケースで、交代が検討しやすくなります。これにより、常に本人にとって最適な支援体制を維持することが期待されます。
より具体的な後見人の交代手続きについては、こちらの記事もご参照ください。
⑤いつから始まる?今後のスケジュール
皆さんが最も気になるのは、この新しい制度がいつから始まるのか、という点でしょう。
現時点での見込みでは、2026年の通常国会に改正法案が提出される予定です。法案が成立した後、国民への周知期間などを経て施行されることになりますが、具体的な施行時期はまだ決まっていません。
今後も最新の情報を注視していく必要がありますが、大きな方向性は固まりつつあります。大切なのは、この変化を見据えて、今から準備を始めることです。
【テーマ別】法改正で私たちの生活はどう変わる?
制度の概要は分かったけれど、「じゃあ、具体的に私たちの生活はどう変わるの?」という疑問が湧いてきますよね。ここでは、特にご相談の多い3つのテーマについて、Q&A形式で解説していきます。
Q1. 家族が後見人になりやすくなりますか?
A. はい、これまでよりもハードルは下がると考えられます。
新しい制度では、「不動産売却の手続きだけ」といったように、支援する期間や権限の範囲を限定できるようになります。これにより、これまで「生涯にわたって責任を負うのは重すぎる」と感じていたご家族も、特定の目的のためであれば補助人を引き受けやすくなる可能性があります。
ただし、もちろん財産を管理する責任がなくなるわけではありません。家庭裁判所の監督下で適切に事務を行う必要があり、他の親族との意見調整も依然として重要です。とはいえ、家族が後見人(補助人)になるという選択肢は、これまでより現実的なものになると言えるでしょう。
Q2. ネット銀行やSNSなどのデジタル財産はどうなりますか?
A. より積極的な事前の対策が重要になります。
ネット銀行の口座、株式のオンライン取引、SNSアカウント、サブスクリプションサービスなど、私たちの財産や生活は急速にデジタル化しています。しかし、これらのデジタル財産は、IDやパスワードが分からなければ家族であってもアクセスが困難です。
今回の改正要綱案でデジタル財産について直接的な規定が盛り込まれるかはまだ不透明ですが、新制度の「オーダーメイド方式」はこの問題に対応する上で非常に重要です。補助人の権限を決める際に、「〇〇銀行のインターネットバンキング取引に関する代理権」「〇〇サービスの解約に関する代理権」といった具体的な権限を盛り込むことで、スムーズな管理が期待できます。
そのためにも、ご本人が元気なうちに、任意後見契約や遺言、エンディングノートなどでデジタル財産の一覧と管理方法についての意思を明確に残しておくことが、これまで以上に重要になります。
Q3. 専門家への報酬・費用は安くなりますか?
A. トータルコストを抑えられるケースが増えると考えられます。
司法書士などの専門家が後見人(補助人)に就任した場合、家庭裁判所が定める報酬を支払う必要があります。現行の終身制では、この費用が生涯にわたって続くことが大きな負担でした。
新しい制度では「必要な期間だけの利用」が可能になるため、例えば「不動産売却のための3ヶ月間だけ」といった短期利用であれば、生涯にわたって報酬が発生し続ける状況は避けられる可能性があり、結果として総費用を抑えられる場合があります。
ただし、報酬の算定基準自体が大きく見直されるかはまだ未定です。個別の状況によって費用は異なりますので、過度な期待は禁物ですが、これまで費用面で利用をためらっていた方にとっては、朗報と言えるでしょう。

法改正を見据え、いま私たちが準備できること
法改正はまだ少し先ですが、ただ待っているだけではいけません。ご自身の、そしてご家族の未来を守るために、今から主体的に準備できることがあります。ここでは、専門家としてぜひ検討していただきたい2つの方法と、最も大切な心構えについてお伝えします。
判断能力が十分なうちに「任意後見契約」を検討する
今回の法改正で法定後見制度は使いやすくなりますが、それでもなお、ご自身の意思を最も確実に未来へ反映できる方法は「任意後見契約」です。
任意後見契約とは、ご自身が元気なうちに、将来判断能力が低下した際に備えて、支援してもらう人(任意後見人)と支援内容をあらかじめ契約で決めておく制度です。家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見とは異なり、信頼できる家族や専門家を自分で指名し、「どんな支援をしてほしいか」を具体的に契約書に盛り込むことができます。
特に、先ほど触れたデジタル財産の管理や、希望する介護・医療の方針など、細やかな希望を反映させるには最適です。将来の法制度がどう変わっても対応できる、最も確実な備えと言えるでしょう。
柔軟な財産管理なら「家族信託」も有効な選択肢
主に財産の管理や承継に重点を置きたい場合、「家族信託」も非常に有効な選択肢です。信頼できる家族に財産を託し、あらかじめ決めた目的に沿って管理・運用してもらう仕組みです。
成年後見制度のように家庭裁判所の監督を受けず、契約内容次第では専門家への継続的な報酬負担を抑えられる場合もあるため、より柔軟で自由度の高い財産管理が可能になることがあります。例えば、不動産の建て替えや積極的な資産活用なども、信託契約の内容次第で実現できます。
ただし、家族信託はあくまで財産管理の仕組みであり、介護施設の契約といった「身上監護」はできません。そのため、任意後見契約と家族信託を組み合わせることで、財産管理と身上監護の両面から、ご自身の希望を盤石に守る体制を築くことができます。
まずは専門家へ相談を。あなたの状況に合わせた最適な備えを
ここまで様々な情報をお伝えしてきましたが、最も大切なのは「一人で悩まないこと」です。
法改正の最新動向、ご本人の意思、ご家族の状況、財産の内容…考慮すべき点は多岐にわたり、最適な対策は百人百様です。ご自身で判断するのは非常に難しく、後見制度利用の手続きも複雑です。
私たち司法書士法人れみらい事務所では、お一人おひとりの状況を丁寧にお伺いし、新しい成年後見制度、任意後見、家族信託、遺言といった様々な選択肢の中から、あなたにとって本当に必要な、最適なプランをご提案します。漠然とした不安を、具体的な安心に変えるお手伝いをさせてください。
どうぞ、お気軽にご相談ください。
当事務所は兵庫県尼崎市を拠点に、相続や遺言に関する手続きをサポートしています。相続手続きでは、戸籍収集や遺産分割協議書の作成、不動産の名義変更など、複雑な手続きを一括してお任せいただけます。また、遺言書の作成支援も行っており、将来の相続に備えた適切なアドバイスを提供しています。
初回のご相談や費用のお見積もりは無料で承っておりますので、お気軽にご相談ください。

