遺言と家族信託の違い
遺言も家族信託も、財産の円滑な承継を目的としている点では似た制度です。しかしながら、どのように財産を管理・運用・承継したいのかによってどちらの制度を利用するのか、または両方の制度を利用するのがよいのか、考えておく必要はあります。
ここでは、遺言と家族信託の違いについていくつか説明していきます。
(1)効力発生時期の違い
遺言は遺言を書いた方が亡くなられた時からその効力が発生します。一方、家族信託は契約をした時からその効力を発生しますので、効力が発生する時期が異なります。
よって、遺言に記載した内容はあくまで亡くなった後の事であり、生前の財産管理等には対応できません。家族信託では契約をした時から効力が発生しますので、契約より財産を信託しておくことで、万一委託者が生きている間に判断能力が低下したとしても、受託者はその財産管理を継続することができます。
(2)財産承継先の柔軟性の違い
遺言では、財産を承継させる人間は自分の次の人しか指定することはできません。一方、家族信託では何代に渡っても財産を承継させる人(受益者)を指定することが可能です。
よって、家族信託でも信託した財産については、遺言書の代わりとなる機能もあるといえるでしょう。
例えば、「甲が死亡したら乙へ、乙が死亡したら丙へ」という旨の内容は、遺言では定めることができませんが、家族信託では可能です。
これによって家族信託では、遺言と違い、予め受益者を何代にも渡り、指定しておくことで自分の直系血族以外に財産が流れてしまうことを防ぐこともできます。
遺言と家族信託を両方利用した場合
では、遺言書も作成し、家族信託契約も締結していた場合には、どちらが優先されるのでしょうか?
遺言は、一般法である民法に基づく制度であり、家族信託は特別法である信託法に基づく制度です。特別法は一般法に優先しますので、この場合には特別法である家族信託が優先することとなります。
以下2つのケースでも、結論としては家族信託契約が優先します。
①遺言を作成した後に、家族信託契約をした場合
遺言は撤回することができ、遺言に抵触する行為をした場合には、その抵触した部分については撤回したものみなされます。
よって、遺言を作成した後に、家族信託契約をした場合にも、前にした遺言に抵触する部分については、家族信託契約が優先させるといえるでしょう。
②家族信託契約をした後に、遺言を作成した場合
家族信託契約によって、信託財産となったものは、委託者固有の財産から切り離されます。よって、遺言によって信託財産を記載しても信託財産は既に固有の信託財産として存在しているので、その部分については効力が発生しないことになります。結果として、こちらも家族信託契約が優先することとなります。