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「不(負)動産」を相続…あなただけの悩みではありません
「誰も欲しがらない遠方の山林を相続してしまった…」
「親が残した古い実家、どうしたらいいんだろう…」
「突然、固定資産税の通知が届いて途方に暮れている」
このようなお悩みを抱えている方は多く、当事務所にも、価値が見いだせず、管理の負担だけがのしかかる「負動産」の相続に関するご相談が多数寄せられています。
この記事では漠然とした不安を一つひとつ整理し、あなたの状況に合った具体的な解決策の道筋を分かりやすく解説していきます。ただし、解決策がすべてのい方に当てはまるとは限りませんが、何をすべきかの判断材料として頂ければ幸いです。
まず現状を整理しましょう|放置リスクと管理の義務
不安な気持ちを一旦脇に置いて、まずはご自身の置かれている法的な状況を客観的に見ていきましょう。問題を放置してしまうと、思わぬリスクにつながる可能性があるからです。
相続問題の全体像については、相続登記義務化から2年、放置は危険!罰則と複雑化事例を解説で体系的に解説しています。
相続したら管理義務からは逃れられない
相続が開始すると、(遺言で取得者が指定されている場合などを除き)遺産分割が終わるまでの間、不動産は相続人の共有状態となるのが一般的です。そして、その間の保存・管理に関する対応も必要になります。具体的には、以下のような費用が発生することがあります。
- 固定資産税・都市計画税
- マンションの管理費・修繕積立金
- 土地や建物の維持管理に必要な費用(例:庭木の剪定、建物の修繕費など)
これらは民法第885条の「相続財産に関する費用」に関係する論点で、原則として相続財産の中から支弁されます。ただし、相続財産から支弁できない場合などには、相続人が相続分に応じて負担関係を整理することになります。特定の相続人が立て替えた場合でも、事情に応じて他の相続人に精算(求償)を求める場面があり得ます。
相続放棄しても管理責任が残るケースとは?
「それなら、相続放棄をすればすべて解決するのでは?」と考えるのは自然なことです。しかし、ここに一つ注意点があります。相続放棄をしても、すぐに管理責任から解放されるとは限らないのです。
民法第940条では、相続放棄をした人は「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対してその財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と定められています。
少し難しい表現ですが、簡単に言うと「次に管理する人が決まるまでは、あなたが管理を続けなければならない場合がある」ということです。例えば、亡くなった親御さんと同居していたり、生前からその不動産の管理を任されていたりしたケースがこれにあたります。
もし、他の相続人も全員が相続放棄をしてしまった場合、最終的には家庭裁判所で相続財産清算人を選任し、その人に財産を引き継ぐまで管理責任が続く可能性があります。安易な相続放棄が、かえって新たな手間や費用を生むこともあるのです。
【選択肢1】相続放棄|全てを手放す最終手段
現状のリスクを理解した上で、最初の選択肢として「相続放棄」を検討しましょう。相続放棄は、家庭裁判所に申述することで、初めから相続人ではなかったことになる手続きです。
メリットは、不動産の管理義務や固定資産税の支払い義務はもちろん、被相続人が残した借金などのマイナスの財産からも完全に解放される点です。
一方で、デメリットは、預貯金や株式といったプラスの財産も含め、すべての財産を一切相続できなくなることです。「この土地だけ放棄したい」ということはできません。また、あなたが相続放棄をすると、相続権は次の順位の相続人(例えば、親や兄弟姉妹)に移っていきます。親族間で思わぬトラブルに発展しないよう、慎重な判断が必要です。
相続放棄の手続きは、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」に行う必要があります。時間的な制約があることも、忘れてはならない重要なポイントです。相続放棄が親族に与える影響についても、事前にしっかり理解しておきましょう。
【選択肢2】相続土地国庫帰属制度|国に引き取ってもらう
「プラスの財産は手元に残したい。でも、この土地だけはどうにかしたい…」
そんな声に応える形で、2023年4月27日から始まったのが「相続土地国庫帰属制度」です。これは、一定の要件を満たす土地について、所有権を国に移すことができる制度です。
この制度は、所有者不明の土地が増え、周辺環境の悪化や公共事業の妨げになる社会問題を解決するために創設されました。すべての土地が対象になるわけではありませんが、これまで打つ手がなかった方々にとって、新たな希望の光となる可能性があります。
利用できる人・できない人
この制度を利用できるのは、「相続」または「(相続人への)遺贈」によって土地を取得した人に限られます。ご自身の意思で売買や生前贈与によって取得した土地や、法人が所有する土地は対象外です。
また、土地が複数人の共有名義になっている場合は、共有者全員で一緒に申請する必要があります。例えば、兄弟3人で相続した土地の場合、兄だけが申請することはできず、3人全員の同意と協力が不可欠です。
引き取ってもらえない土地の10の要件
国も無条件に土地を引き取ってくれるわけではありません。将来、国が管理する上で大きな負担となるような土地は、対象外とされています。申請しても承認されない土地の主な要件は、以下の10項目です。ご自身の土地が当てはまらないか、セルフチェックしてみましょう。

【申請が「却下」される土地(申請自体ができない)】
- 建物がある土地
- 担保権(抵当権など)や利用権(地上権、賃借権など)が設定されている土地
- 通路など、他人に利用されることが予定されている土地
- 土壌汚染対策法の特定有害物質によって汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地
【申請が「不承認」となる土地(申請はできるが、認められない可能性が高い)】
- 崖があって、管理に過大な費用・労力がかかる土地
- 土地の管理・処分を妨げる有体物(放置された車両や廃棄物など)がある土地
- 土地の管理・処分のために、除去しなければならない有体物(地中の障害物など)がある土地
- 隣の土地の所有者などとの争訟を解決しないと管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に過大な費用・労力がかかる土地
どのくらいの費用がかかる?審査手数料と負担金
制度の利用には、2種類の費用がかかります。
- 審査手数料:申請時に、土地一筆あたり14,000円を収入印紙で納付します。この手数料は、審査の結果、不承認となった場合や申請を取り下げた場合でも返還されません。
- 負担金:審査に通り、承認された場合に納付するお金です。その土地の性質に応じた10年分の標準的な管理費用とされており、国庫に帰属した後の管理コストを賄うためのものです。
負担金の額は土地の種類によって異なり、原則として20万円からですが、市街地の宅地や農地、森林などでは面積に応じて算定されます。例えば、市街地の宅地(200㎡)であれば約80万円が目安となります。
申請から国庫帰属までの5ステップ
手続きの大まかな流れは以下の通りです。
- 法務局への事前相談:まずは、土地の所在地を管轄する法務局(本局)に相談することから始まります。そもそも制度の対象となりそうか、どのような書類が必要かなどを確認します。
- 申請書類の作成・提出:申請書や土地の図面、写真など、必要な書類を準備して法務局に提出します。この書類準備が手続きの中で最も大変な部分かもしれません。
- 法務局による審査・調査:提出された書類をもとに、法務局の職員が書面審査や実地調査を行います。
- 負担金の納付:審査の結果、承認されると、法務局から負担金の額が通知されます。通知から30日以内に負担金を納付します。
- 国庫帰属完了:負担金の納付をもって、土地の所有権が国に移転し、手続きは完了です。
より詳しい情報は、法務省の公式サイトでも確認できます。
参照:法務省:相続土地国庫帰属制度について
【選択肢3】その他の方法|売却・寄付を検討する
相続放棄もできず、国庫帰属制度の要件も満たさない…そんな八方塞がりの状況でも、まだ諦める必要はありません。時間はかかるかもしれませんが、他の方法も検討してみましょう。
売却:少しでも価値があるなら
ご自身では「負動産」だと思っていても、視点を変えれば価値を見出してくれる人がいるかもしれません。可能性はゼロではありません。
- 価格を大幅に下げる:相場よりもかなり安い価格設定にすれば、買い手が見つかる可能性があります。
- 古家を解体して更地にする:建物の状態が悪い場合は、解体して更地にすることで土地の魅力が上がり、売れやすくなることがあります。
- 隣地の所有者に交渉する:隣地の方にとっては、自分の土地を広げるチャンスかもしれません。一度、買い取ってもらえないか打診してみる価値はあります。
ただし、売却には仲介手数料や税金などの費用がかかりますし、必ず買い手が見つかる保証はありません。特に、地目が田や畑の土地の売買には、農地法の許可が必要になるなど、特別な手続きが求められる場合もあります。
寄付:自治体や法人へ
自治体や、地域の活動をしているNPO法人などに寄付するという選択肢もあります。しかし、残念ながらこれは非常にハードルが高いのが現実です。
自治体が寄付を受け入れるのは、公園や道路の拡張用地など、公共の目的で利用できる見込みがある土地に限られることがほとんどです。個人や法人が欲しがらない土地を、税金で管理することになる自治体が引き取るケースは稀だと考えておいた方が良いでしょう。
どうしても寄付を検討したい場合は、清算型遺贈という形で寄付する方法もありますが、これも受け入れ先を見つけることが大前提となります。
どの方法を選ぶべき?状況別フローチャート
ここまで様々な選択肢を見てきましたが、情報が多くて混乱してしまったかもしれません。そこで、あなたの状況にどの選択肢が合っているか、簡単なフローチャートで整理してみましょう。

このチャートはあくまで簡易的なものです。実際には、相続人の数や土地の具体的な状況など、様々な要素を考慮して総合的に判断する必要があります。
専門家への相談で、最善の道筋が見つかります
負動産の相続問題は、法律や税金、不動産の実務など、幅広い知識が求められる複雑な問題です。一人で抱え込んでしまうと、精神的な負担が大きいだけでなく、誤った判断をしてしまうリスクもあります。
もし、あなたが以下のような状況であれば、ぜひ一度私たち専門家にご相談ください。
- 相続放棄の期限(3ヶ月)が迫っている
- 他の相続人と意見がまとまらない
- 相続土地国庫帰属制度を利用したいが、要件を満たすか分からない
- 申請書類の作成が複雑で、自分ではできそうにない
- どの選択肢が自分にとってベストなのか判断できない
私たち司法書士は、相続登記などの登記手続きや、相続手続に必要な書類作成の支援を中心にサポートしています。状況を丁寧にお伺いし、法的な観点から論点を整理したうえで、必要に応じて弁護士・税理士など他士業とも連携しながら、解決までの道筋をご提案します。遺産整理業務として、一連の手続をまとめてご相談いただくことも可能です。
不安な気持ちを、ほんの少しだけ勇気に変えて、一歩踏み出してみませんか。私たちは、いつでもあなたの味方です。
当事務所は兵庫県尼崎市を拠点に、相続や遺言に関する手続きをサポートしています。相続手続きでは、戸籍収集や遺産分割協議書の作成、不動産の名義変更など、複雑な手続きを一括してお任せいただけます。また、遺言書の作成支援も行っており、将来の相続に備えた適切なアドバイスを提供しています。
初回のご相談や費用のお見積もりは無料で承っておりますので、お気軽にご相談ください。

