相続放棄で後悔しないために。判断基準と専門家への相談

相続放棄、本当にしますか?まず落ち着いて現状を整理しましょう

ご家族が亡くなられ、深い悲しみの中、相続という聞き慣れない手続きに直面し、大きな不安を感じていらっしゃるのではないでしょうか。「故人に借金があったかもしれない」「他の相続人ともめたくない」…そんな思いから「相続放棄」という言葉が頭をよぎっているかもしれません。

でも、どうか焦らないでください。相続放棄は、あなたのこれからの人生に影響を及ぼす可能性がある重要な決断です。情報が少ない中で急いで決めてしまい、後から「こんなはずではなかった」と後悔することだけは避けていただきたいのです。

この記事は、そんなあなたのための「道しるべ」です。私たち司法書士法人れみらい事務所は、相続分野に力を入れており、あなたが冷静に状況を整理し、ご自身にとって最善の選択をするための情報提供や手続きの支援をいたします。

相続放棄のメリット・デメリットから、具体的な判断基準、そして絶対にやってはいけない注意点まで、一つひとつ丁寧にご説明します。この記事を読み終える頃には、あなたが次に何をすべきかが明確になっているはずです。どうぞ、ご自身のペースで読み進めてください。

相続放棄のメリット・デメリットを正しく理解する

相続放棄を検討する上で、まず基本となるのがメリットとデメリットを天秤にかけることです。良い面だけを見て判断すると、思わぬ落とし穴にはまってしまう可能性があります。ここでは、専門家の視点から特に重要なポイントを解説します。

メリット:借金や相続トラブルから解放される

相続放棄の最大のメリットは、なんといっても故人の借金を引き継がなくて済むことです。プラスの財産よりも明らかに借金が多い場合、相続放棄をすることで、あなたの生活が守られます。一般に相続放棄をすると被相続人の負債や連帯保証人の地位は継承されませんが、具体的な契約内容や担保の有無等により扱いが異なる場合があるため、保証契約の有無や内容は専門家に確認してください。

また、相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになります。そのため、他の相続人との遺産分割協議に参加する必要がありません。相続放棄により一定の法的関与を避けられるため、話し合いの負担が軽減される場合があります。

デメリット:プラスの財産も全て手放すことになる

一方で、最も重要なデメリットは、プラスの財産も一切相続できなくなるという点です。相続放棄は「借金だけを放棄して、預貯金や不動産はもらう」といった都合の良いことはできません。

もし、手続きをした後に価値のある財産が見つかったとしても、その権利を主張することはできません。そして、一度家庭裁判所で受理された相続放棄は、原則として撤回(取り消し)ができませんが、詐欺や強迫によって手続きした場合など、例外的に裁判所が取り消しを認める余地もあります。非常に重い決断ですので、慎重に検討する必要があります。

特に、故人が住んでいた「実家」など、金銭的な価値だけでなく、ご家族にとって思い出の詰まった大切な財産も手放すことになります。この点は、感情面も考慮して慎重に判断する必要があります。

相続放棄のメリット(借金からの解放)とデメリット(プラスの財産も失う)を比較した図解。

注意すべき点:相続権が他の親族に移り、新たな問題も

多くの方が見落としがちなのが、自分が相続放棄をすると、相続権が次の順位の親族に移るという点です。例えば、亡くなった方(被相続人)の子ども全員が相続放棄をすると、次は亡くなった方の親(祖父母)へ、親もすでに亡くなっている場合は、亡くなった方の兄弟姉妹(場合によっては甥・姪)へと相続権が移っていきます。

もし故人に借金があった場合、その返済義務が、事情を知らない他の親族に突然移ってしまうことになります。良かれと思ってした相続放棄が、結果的に親族間のトラブルを引き起こす原因になりかねません。相続放棄をする場合は、次の順位の相続人になる可能性のある方へ、事前に連絡を入れておくなどの配慮がとても大切です。

後悔しないための意思決定5ステップ|自分でできる判断基準

「自分は相続放棄をすべきなのだろうか…」その答えを出すために、ご自身の状況を客観的に整理する5つのステップをご紹介します。一つずつ確認していくことで、思考が整理され、進むべき道が見えてくるはずです。

ステップ1:まずは相続財産を調査する

全ての判断の基礎となるのが、故人の財産を正確に把握することです。プラスの財産(資産)とマイナスの財産(負債)を、分かる範囲でリストアップしてみましょう。

  • プラスの財産の例:預貯金、不動産(土地・建物)、株式などの有価証券、自動車、生命保険金(※受取人指定による)、貸付金など
  • マイナスの財産の例:借金、住宅ローン、未払いの税金や家賃、誰かの連帯保証人になっている地位など

何から手をつけていいか分からない場合は、まず故人のご自宅にある預金通帳や郵便物を確認することから始めましょう。金融機関からの督促状や、固定資産税の納税通知書などが手がかりになります。借金の有無が不明な場合は、信用情報機関に情報開示を請求する方法もあります。財産の全体像が見えてくると、冷静な判断がしやすくなります。より詳しい調査方法は「相続財産を調査するには」の記事でも解説しています。

ステップ2:「相続放棄すべき」典型的な3つのケース

財産調査の結果、以下のような状況であれば、相続放棄が有力な選択肢となります。

  1. 明らかに債務超過である場合
    プラスの財産を全て合わせても、借金を返済しきれない場合です。これが相続放棄を選択する最も典型的な理由です。
  2. 特定の相続人に財産を集中させたい場合
    例えば、家業を継ぐ長男に全ての財産を相続させたい、といった場合に、他の兄弟が相続放棄をすることで、スムーズな事業承継が可能になることがあります。
  3. 相続トラブルに一切関わりたくない場合
    財産の多少にかかわらず、他の相続人との関係性が悪く、遺産分割協議に参加すること自体が大きな精神的苦痛になるようなケースです。

ステップ3:「相続放棄しない方が良い」3つのケース

逆に、安易に相続放棄をすべきではないケースもあります。一度立ち止まって考えてみましょう。

  1. プラスの財産が上回る場合
    借金があったとしても、それを上回るプラスの財産があれば、相続して借金を返済した上で、残りの財産を受け取ることができます。
  2. 生命保険金など放棄しても受け取れる財産がある場合
    一般に、受取人が特定の相続人に指定されている生命保険金は、相続財産ではなく「受取人固有の財産」とみなされるため、相続放棄をしても受け取ることができます。ただし、保険契約の表示(受取人が「相続人」となっている場合など)や個別の事情により扱いが異なる場合があるため、詳細は保険契約書の確認や専門家への相談が必要です。この点を勘違いして、受け取れるはずの保険金まで諦めてしまうケースがあるので注意が必要です。
  3. どうしても手放したくない財産がある場合
    借金があったとしても、「先祖代々の土地」や「家族で暮らした実家」など、どうしても手放したくない財産がある場合です。このような場合は、相続放棄以外の方法を検討すべきでしょう。

ステップ4:もう一つの選択肢「限定承認」と比較する

「財産と借金、どちらが多いかハッキリしない…」そんな時に有効なのが「限定承認」という手続きです。これは、相続したプラスの財産の範囲内でのみ、故人の借金を返済するという方法です。

例えば、調査の結果300万円の借金が見つかったけれど、後から500万円の預金が見つかった場合、限定承認なら預金から借金を返済し、残りの200万円を相続できます。もし預金が200万円しかなくても、返済はその200万円までで済み、不足分の100万円を自腹で支払う必要はありません。ただし、限定承認は相続人全員の共同申述が必要であり、債権者への公告・配当など手続きが複雑で実務的負担が大きいため、専門家による十分な事前調査と助言が必須です。

相続放棄との大きな違いは、プラスの財産が残る可能性を留保できる点です。ただし、手続きが非常に複雑で、相続人全員で申し立てる必要があるなど、ハードルが高いのがデメリットです。限定承認を検討する場合は、必ず専門家へ相談することをおすすめします。

相続放棄と限定承認の違いを比較したインフォグラフィック。それぞれの特徴、メリット、デメリットを解説。

ステップ5:3ヶ月の期限(熟慮期間)を確認する

相続放棄や限定承認を検討する上で、絶対に忘れてはならないのが「3ヶ月」という期限(熟慮期間)です。この期間は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時」からカウントが始まります。多くの場合、ご家族が亡くなった日を知った時から3ヶ月、ということになります。

この3ヶ月という期間は、あっという間に過ぎてしまいます。もし、財産調査に時間がかかり、期間内に決断できそうにない場合は、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申立てを行うことで、期間を延長してもらえる可能性があります。

期限が迫っているからと焦って決断するのではなく、延長の申立てという選択肢があることを覚えておいてください。もし期限を過ぎてしまうと、原則として相続放棄はできなくなり、単純承認(すべての財産と借金を相続すること)したとみなされてしまいますが、事情によっては家庭裁判所が相続放棄を受理する場合もありますので、諦めずに専門家にご相談ください。

参考:相続の承認又は放棄の期間の伸長 | 裁判所

絶対にやってはいけない!相続放棄できなくなるNG行動と失敗例

相続放棄を考えている期間中に、うっかり特定の行動をとってしまうと、法律上「相続する意思がある(単純承認した)」とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。これを「法定単純承認」といいます。後悔しないために、以下の行動は絶対に避けてください。

  • 故人の預貯金を引き出して使ってしまう
    葬儀費用に充てるなど、一部例外はありますが、自分の生活費などに使ってしまうとNGです。
  • 故人の不動産を売却したり、賃貸契約を結んだりする
    相続財産を処分する行為とみなされます。
  • 故人の借金を一部でも返済する
    相続人として債務を認めたことになります。
  • 価値のある形見(車、骨董品、貴金属など)を持ち帰る
    一般的な価値の低い形見分けは問題ないとされていますが、資産価値のあるものを自分のものにすると財産の処分とみなされる恐れがあります。
  • 遺産分割協議書に署名・捺印する
    相続することを前提とした話し合いに参加し、合意したことになってしまいます。

実際にあった失敗例として、「故人の口座から光熱費の引き落としが続いていたため、良かれと思って故人の預金で支払ってしまった」というケースがあります。このような些細な行動が、後々相続放棄を認められない原因になることもあるのです。判断に迷う行動は、専門家に相談するまで控えるのが賢明です。

司法書士に相続放棄の相談をし、安心している相談者の様子。

専門家への相談タイミングと費用|司法書士に依頼するメリット

相続放棄の手続きは、ご自身で行うことも不可能ではありません。しかし、書類の不備で受理されなかったり、気づかぬうちにNG行動をとってしまったりするリスクを考えると、専門家へ相談するメリットは非常に大きいと言えます。

こんな時はすぐ相談!専門家に頼るべきタイミング

以下の項目に一つでも当てはまる方は、お一人で悩まず、できるだけ早く専門家へ相談することをおすすめします。

  • 3ヶ月の熟慮期間が迫っている
  • プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか分からない
  • 相続人の数が多く、中には連絡が取りづらい人もいる
  • 金融機関など(債権者)から督促状が届いている
  • 限定承認も選択肢として検討したい
  • 仕事などが忙しく、自分で手続きを進める時間がない

特に期限が迫っている場合は、一刻も早い相談がスムーズな解決の鍵となります。

司法書士と弁護士、どちらに相談すべき?

相続放棄の相談先として、司法書士と弁護士が挙げられます。それぞれの役割には違いがあります。

司法書士弁護士
主な役割家庭裁判所に提出する書類作成のプロ依頼者の代理人として交渉・訴訟を行うプロ
おすすめのケース・相続人間で争いがない・手続きを確実かつスムーズに進めたい・費用をできるだけ抑えたい・他の相続人とすでにもめている・債権者との交渉が必要・相続放棄の期限を過ぎてしまった
司法書士と弁護士の役割の違い

もし、相続人同士での争いがなく、「とにかく相続放棄の手続きを間違いなく、スムーズに進めたい」という状況であれば、まずは司法書士にご相談いただくのが良いでしょう。司法書士は書類作成の専門家として、費用を抑えながら迅速・確実な手続きをサポートします。

まとめ:一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください

ここまで、相続放棄で後悔しないための判断基準や注意点について解説してきました。

相続放棄は、あなたのこれからの人生を左右する、とても重要な決断です。多くの情報を一度に得て、かえって混乱してしまったかもしれません。しかし、一番大切なことは、一人で全ての悩みを抱え込まないことです。

私たち司法書士法人れみらい事務所は、法律の専門家であると同時に、あなたの不安な心に寄り添うパートナーでありたいと考えています。敷居が高いと感じる必要は全くありません。ささいなことでも、まとまっていなくても大丈夫です。

当事務所では、相続問題に関する初回のご相談は無料(30分程度)でお受けしています。また、女性司法書士も在籍しておりますので、ご希望に応じて柔軟に対応することも可能です。まずはあなたのお話をお聞かせいただくことから、解決への第一歩が始まります。

どうぞ、安心してお問い合わせはこちらからご連絡ください。私たちは、適切な手続きの支援を通じて、あなたの「これから」をサポートいたします。

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