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遺言書が何通も…まずは落ち着いて状況を整理しましょう
故人の遺品を整理していると、思いがけず複数の遺言書が見つかることがあります。そのような場面に直面すると「どれが本物なの?」「どうしたらいいの?」と、頭が真っ白になってしまうお気持ちもになることもあるでしょう。
でも、どうかご安心ください。複数の遺言書が見つかることは、決して珍しいことではありません。故人が生前、ご自身の想いや状況の変化に合わせて、何度も遺言を書き直された結果なのです。大切なのは、慌てずに一つひとつ状況を整理していくことです。
この記事では、複数の遺言書を前に途方に暮れているあなたのために、司法書士が専門家の視点から、
- どの遺言書が法的に有効なのかを判断する「3つの基本ルール」
- 発見してから手続きを完了するまでの「具体的な5つのステップ」
- 起こりがちなトラブルと、その「現実的な解決策」
を、分かりやすく解説していきます。この記事を読み終える頃には、あなたが今何をすべきか、そして、どうすればご家族間のトラブルを避け、円満に相続手続きを進められるのかが、明確になっているはずです。一緒に、この問題を解決していきましょう。
どの遺言書が有効?効力を決める3つの基本ルール
複数の遺言書が見つかったとき、その効力を判断するための絶対的なルールが存在します。それは非常にシンプルで、故人の「最後の意思」を最も尊重するという考えに基づいています。まずは、この3つの基本ルールをしっかりと押さえましょう。この全体像については、相続登記(遺言書による名義変更)の手続きを理解する上でも重要な知識となります。

ルール1:日付が最も新しい遺言書が優先される
これが最も重要な大原則です。遺言書は、書かれた日付が新しいものほど優先されます。なぜなら、法律は「最も最近に示された故人の意思」を尊重するからです。
例えば、故人が「令和5年5月1日」に作成した遺言書と、「令和7年3月10日」に作成した遺言書が見つかったとします。この場合、原則として「令和7年3月10日」に作成された遺言書の内容が有効となります。
このルールからも分かるように、遺言書において日付は命とも言えるほど重要です。もし日付の記載がない遺言書は、方式不備として無効となるおそれがあります。また、「令和7年吉日」のような日付が特定しにくい書き方の場合も、遺言書全体の記載から作成日を特定できるか等の事情によって結論が分かれ得るため、慎重な確認が必要です。
ルール2:内容が矛盾する部分は、新しい遺言の内容で上書きされる
「新しい遺言書が見つかったら、古いものは全て無効になる」と考えてしまうかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。複数の遺言書の内容が互いに矛盾しない(抵触しない)部分は、それぞれ有効になるのです。
これを「遺言の撤回」と呼びますが、少し具体例で見てみましょう。
- 抵触しないケース(両方有効)
【古い遺言】「A銀行の預金は長男に相続させる」
【新しい遺言】「自宅の土地建物は次男に相続させる」
→この場合、預金と不動産についてそれぞれ別の内容が書かれており、矛盾はありません。そのため、両方の遺言が有効となり、長男が預金を、次男が不動産を相続します。 - 抵触するケース(新しい遺言が優先)
【古い遺言】「自宅の土地建物は長男に相続させる」
【新しい遺言】「自宅の土地建物は妻に相続させる」
→この場合、「自宅の土地建物」の相続先について内容が矛盾しています。そのため、この部分については新しい遺言が優先され、妻が不動産を相続することになります。もし古い遺言に他の財産(預金など)に関する記載があれば、その部分は有効なままです。
このように、遺言書全体をパズルのように突き合わせ、どの部分が「上書き」され、どの部分が「生き残る」のかを丁寧に見極める必要があります。
ルール3:公正証書でも自筆でも、日付の前後が全て
「公証役場で専門家と作った『公正証書遺言』の方が、自宅で書いた『自筆証書遺言』よりも効力が強いのでは?」と誤解されている方が非常に多くいらっしゃいます。
これは明確な間違いです。遺言書の有効性を判断する上で、その種類は一切関係ありません。たとえ、公証人が関与して作成された公正証書遺言であっても、それより新しい日付の自筆証書遺言が見つかり、かつその自筆証書遺言が有効である場合には、内容が抵触する部分については新しい遺言の内容が優先されます。
あくまで判断基準は、ただ一つ。「作成された日付が、どちらが新しいか」これだけです。この点をしっかり覚えておいてください。
(参考:法務省「遺言に関する見直し」)
【実践】遺言書発見から手続き完了までの5ステップ
有効性を判断するルールが分かったら、次はいよいよ実際の手続きです。混乱しないよう、以下の5つのステップに沿って進めていきましょう。

ステップ1:全ての遺言書を時系列に並べる
まずは物理的な整理から始めます。見つかった遺言書を全て机の上に広げ、日付を確認して古いものから順に並べてみてください。この単純な作業が、複雑に見える状況を客観的に把握するための大切な第一歩になります。
【注意点】
この段階で、封筒に封がされている遺言書を勝手に開封してはいけません。特に自筆で書かれた遺言書の場合、家庭裁判所での「検認」という手続きを経ずに開封すると、過料(罰金のようなもの)を科される可能性があります。中身が気になるとは思いますが、ぐっとこらえてそのままの状態を保ってください。
ステップ2:検認が必要な遺言書かを確認する
次に、見つかった遺言書が家庭裁判所の「検認(けんにん)」という手続きが必要なものかどうかを仕分けします。検認とは、遺言書の偽造や変造を防ぎ、その内容を保全するための手続きです。
- 検認が不要な遺言書
- 公正証書遺言:公証人が作成に関与し、原本が公証役場に保管されているため、信頼性が高く検認は不要です。
- 法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用した遺言書:法務局が原本を保管し、形式をチェックしているため、検認は不要です。遺言書保管制度は比較的新しい制度ですが、利用されているケースも増えています。
- 検認が必要な遺言書
- 上記以外の自筆証書遺言:自宅や貸金庫などで保管されていた、手書きの遺言書は全て検認が必要です。
- 秘密証書遺言:内容は秘密にできますが、存在は公証役場で証明してもらう遺言です。これも検認が必要です。
複数の遺言書の中に検認が必要なものが1通でも含まれている場合は、検認が必要な遺言書を全てまとめて家庭裁判所に申し立てることになります。より詳しい遺言書の検認手続きについては、別の記事でも解説していますのでご参照ください。
ステップ3:家庭裁判所で検認手続きを行う
検認が必要な場合、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「遺言書の検認申立て」を行います。申立てには、申立書のほか、遺言者の出生から死亡までの全ての戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本など、多くの書類が必要です。
申立て後、裁判所から相続人に「検認期日」の通知が届きます。当日は、申立人が遺言書を持参し、相続人の立会いのもとで裁判官が遺言書を開封し、状態を確認します。なお、この検認はあくまで遺言書の「状態」を確認する手続きであり、その遺言が法的に有効か無効かを判断する場ではないということを理解しておくことが重要です。
ステップ4:有効な遺言書の内容を確定させる
検認手続きが終わったら(または検認が不要な場合はこのステップから)、いよいよ全ての遺言書の内容を突き合わせます。ここで、冒頭で説明した「3つの基本ルール」を使って、最終的にどの遺言のどの部分が有効になるのかを確定させる作業を行います。
日付を追いながら、「この部分は新しい遺言で上書きされたな」「この部分は前の遺言のままだな」と、丁寧に見比べていきましょう。もし、文面の解釈が難しい部分や、相続人の間で意見が分かれそうな曖昧な表現がある場合は、トラブルに発展する前に専門家に相談することをおすすめします。
ステップ5:遺言執行者が手続きを進める
有効な遺言内容が確定したら、その内容に従って不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約・分配といった具体的な相続手続きを進めます。
この手続きを行うのが「遺言執行者」です。遺言書の中で遺言執行者が指定されていれば、その人が手続きの主導権を握ります。もし指定がない場合は、相続人が家庭裁判所に選任を申し立てるか、あるいは相続人全員で協力して手続きを進めることになります。ただし、相続人の中に非協力的な人がいたり、手続きが複雑だったりすると、なかなか進まないことも少なくありません。このような場合、遺産分割協議書への押印など、様々な場面で協力が必要となります。
複数の遺言書で起こりがちなトラブルと具体的な解決策
ルールや手順が分かっても、現実の相続では予期せぬトラブルが起こりがちです。ここでは、特によくある3つのケースとその解決策について解説します。
ケース1:同じ日付の遺言書が2通出てきた
これは非常に悩ましいケースです。法律上、同じ日付の遺言書が複数ある場合でも、作成の前後関係(同日内の先後)が判断できるときは、後に作成された遺言が優先すると整理されます。もっとも、内容が抵触しているにもかかわらず先後がどうしても判断できない場合は、抵触する部分については遺言による指定を確定できず、遺言がなかったものとして遺産分割協議等で対応することになる場合があります。
ケース2:古い遺言書で手続きを進めた後に新しい遺言書が…
「公正証書遺言が見つかったので、これで全てだと思って不動産の名義変更を済ませてしまった。ところがその後、タンスの奥から新しい日付の自筆証書遺言が出てきてしまった…」というケースも実際にあります。
この場合、原則に立ち返り、新しい遺言書の内容が優先されます。したがって、抵触する部分については、新しい遺言書の内容に合わせて手続の見直し(必要に応じて登記等の手続をやり直すこと)が必要になる場合があります。
もし、新しい遺言の内容に納得できない相続人がいると、話はさらに複雑になります。こうした事態を避けるためにも、遺品整理の際は「遺言書は一つとは限らない」という意識を持ち、慎重に捜索することが何よりも大切です。遺言の存在を前提とした遺言の撤回という考え方も重要になります。

ケース3:遺言書の解釈で相続人の意見が対立した
有効な遺言書が確定しても、その文面が曖昧なためにトラブルになることもあります。
例えば、「私の預貯金は全て長男に相続させる」と書かれていたとします。しかし、遺言書作成後に故人が新たに開設したネット銀行の口座が見つかった場合、この「預貯金」に新しい口座も含まれるのかどうかで意見が分かれるかもしれません。
当事者同士で話し合っても、それぞれの立場からの主張がぶつかり、感情的な対立に陥りがちです。このような場合は、客観的な第三者である専門家を間に入れて話し合いの場(遺産分割協議)を設けるか、家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用して、冷静に解決の道を探ることが賢明です。遺言があるからといって、必ずしも遺産分割協議書が不要になるとは限らないのです。
どうしても解決が難しい場合は「遺産分割協議」も選択肢に
原則として、有効な遺言書の内容は尊重されます。しかし、遺言書の内容が非常に複雑であったり、相続人間の感情的なしこりが深く、遺言通りに進めることがかえって争いを大きくしてしまうようなケースもあります。
そのような場合の「最終手段」として、相続人全員が合意すれば、有効な遺言書の内容とは異なる分け方で遺産分割協議を行うことも可能です。例えば、遺言では「長男に全財産」とあっても、相続人である長男、次男、長女の全員が「兄弟で平等に3分の1ずつ分けよう」と納得すれば、その合意が優先されるのです。
ただし、これには重要な注意点があります。
- 遺言で遺言執行者が定められている場合は、その遺言執行者の同意が必要です。
- 遺言で相続人以外の人(孫や知人など)に財産を渡す「遺贈」がされている場合、その人(受遺者)の同意も必要になります。
安易に判断すると後で大きなトラブルになりかねませんので、遺言と異なる内容で相続する場合は、必ず事前に専門家へご相談ください。
複数の遺言書問題、司法書士に相談するメリットとは
ここまでお読みいただき、「ルールは分かったけれど、自分たちだけで正しく判断し、手続きを進めるのは難しそうだ」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。その直感は、おそらく正しいでしょう。複数の遺言書が絡む相続は、専門家でも慎重な判断が求められる複雑な案件です。
このような状況で司法書士にご相談いただくことには、大きなメリットがあります。
- 法的に正確な有効性の判断ができる
全ての遺言書を精査し、法的なルールに則ってどの部分が有効で、どの部分が失効しているのかを正確に判断します。曖昧な解釈による将来のトラブルを防ぎます。 - 煩雑な手続きをまとめて代行できる
戸籍謄本の収集支援から、家庭裁判所への検認申立てのサポート、不動産の名義変更(相続登記)まで、状況に応じて相続手続きを幅広くサポートします。 - 相続人間の公平な調整役になれる
相続問題は、法律だけでなく感情が大きく絡み合います。司法書士が中立的な立場で間に入ることで、冷静な話し合いを促し、相続人全員が納得できる円満な解決へと導くお手伝いができます。
当事務所では、遺産整理業務として、こうした複雑な相続手続きをトータルでサポートしております。初回のご相談は無料ですので、どうぞお一人で抱え込まず、お気軽にご連絡ください。
まとめ:混乱したらまず専門家へ。それが円満解決への一番の近道です
複数の遺言書が見つかった場合、まずは落ち着いて、今回ご紹介した「3つの基本ルール」と「5つのステップ」を思い出してください。
一番大切なのは、日付が新しいものが優先されるということ。そして、自己判断で開封したり、手続きを進めたりしないことです。
しかし、ルールが分かっても、実際の遺言書を目の前にすると、解釈に迷ったり、相続人間の意見がまとまらなかったりと、様々な壁に突き当たることがあります。そんなとき、無理にご自身たちだけで解決しようとすると、かえって時間がかかり、家族の間に修復できない溝を生んでしまうことにもなりかねません。
「少しでも不安を感じたら」「どう進めていいか分からなくなったら」――その時が、専門家に相談する最適なタイミングです。私たち司法書士は、あなたの状況を整理し、法的な問題をクリアにしながら、ご家族が円満に故人の想いを引き継げるよう、全力でサポートいたします。それが、結果的に最もスムーズで、心穏やかな解決への一番の近道となるはずです。
当事務所は兵庫県尼崎市を拠点に、相続や遺言に関する手続きをサポートしています。相続手続きでは、戸籍収集や遺産分割協議書の作成、不動産の名義変更など、複雑な手続きを一括してお任せいただけます。また、遺言書の作成支援も行っており、将来の相続に備えた適切なアドバイスを提供しています。
初回のご相談や費用のお見積もりは無料で承っておりますので、お気軽にご相談ください。

