Archive for the ‘家族信託’ Category
家族信託した不動産を売却するには
家族信託された不動産の売却
認知症対策などで不動産の家族信託(信託登記)をご検討されている方もおられると思います。
家族信託した後に、不動産を売却を視野に入れている方はそれに沿った家族信託の設定を行わなければなりません。それさえしっかり出来ていれば、勿論売却は可能です。
万一誤った設定をしてしまうと、せっかく家族信託をしたのに、売却ができない事態に陥ることも考えられますので注意が必要です。
不動産を家族信託する際の注意点
- 不動産の売買に関する項目があるか
信託契約の条項に信託する不動産について売買が含まれている場合には、売却することができます。
売却する際の売主については、家族信託した不動産については、名義人が委託者(元々の所有者)から受託者に変わりますので、受託者となります。
万一、信託契約の条項に売買に関する項目がない場合には、信託契約書の条項を変更するか、一旦合意解除により信託を終了させた上で委託者(元々の所有者)が売主となって売却する方法となります。
- 信託不動産に担保(抵当権など)がついていないか
信託不動産に担保がついている場合、所有者は受託者に変更されるものの、債務者は委託者のままで変わりません。
金融機関によっては、所有者を金融機関の承諾なしに第三者に移転した場合には、一括返済を求められることもありますので、事前に担保を抹消するか金融機関の承諾を得る必要があるでしょう。
まとめ
このように不動産を家族信託するには、適切に手順を踏んでいく必要があります。
せっかく家族信託したのに、当初の目的である売却ができなければ意味がありません。
不動産の家族信託をご検討されている方は、気軽にご相談ください。初回相談・費用見積は無料で承っております。
家族信託はどういう場合に終了するのか?終了させたいときには
家族信託については、委託者と受託者の契約行為となりますので、信託法及び信託契約で定めた理由などにより信託を終了させることもできます。
では、どのようなケースで家族信託は終了してしまうのか、ここでは家族信託の「終了」について説明していきます。
信託法による終了事由
信託法にも終了事由が規定されています。ここでは主な終了事由について例を挙げていきましょう。
①信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき
当初契約で定めた信託の目的が達成又は不達成となった際には、それ以上信託を継続させていく理由もなくなる為に終了するとされています。
②受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年以上継続したとき
家族信託は、委託者と受託者の信託契約により受託者が受益者の為に財産の管理、保全、運用、処分などを行うものです。
よって、受益者が受託者と同一になってしまうとそもそもの信託行為も意味がなくなる為に、終了するとされています。
このような状態になれば1年以内に新たな受託者に変更しなければなりません。
③受託者が欠けた場合で、新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき
こちらも②と同様に受託者がいない中では信託を継続していくことはできません。
信託契約の中で、受託者が欠けた場合に備えて二次受託者を定めておくのも一つです。
④信託行為において定めた事由が生じたとき
信託契約の中で信託終了事由を定めることもできます。
信託契約により、任意で終了事由を定める場合には、その信託目的などに応じて決めていくこととなります。
信託目的でよくご相談いただく、委託者兼受益者(親)の認知症対策として信託契約を行う際には、生前の信託行為を定めるておくことによりその目的は達せられる為に受益者(親)が死亡した際には家族信託を終了させるのが良いでしょう。
⑤委託者及び受益者の同意
家族信託の信託目的は、委託者の意思を受託者が実現させることです。
そして、そこから得られる利益は受益者のものとなります。よって委託者及び受益者の同意があれば、信託を継続させる必要がなくなる為に、終了事由とされています。
ただし、いきなり信託契約を終了させられたら受託者にとって不利益を被る場合もあります。その際には、受託者の損害を賠償しなければなりません。
<参考>
(信託の終了事由)
第163条 信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。 一 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。 二 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき。 三 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき。 四 受託者が第52条(第53条第2項及び第54条第4項において準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。 五 信託の併合がされたとき。 六 第165条又は第166条の規定により信託の終了を命ずる裁判があったとき。 七 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。 八 委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、破産法第53条第1項、民事再生法第49条第1項又は会社更生法第61条第1項(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第41条第1項及び第206条第1項において準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。 九 信託行為において定めた事由が生じたとき。 |
(委託者及び受益者の合意等による信託の終了)
第164条 委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。 2 委託者及び受益者が受託者に不利な時期に信託を終了したときは、委託者及び受益者は、受託者の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。 3 前二項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。 4 委託者が現に存しない場合には、第1項及び第2項の規定は、適用しない。 ① 委託者及び受益者が終了の合意をしたとき ② 信託の目的を達成したとき ③ 信託の目的を達成することができなくなったとき ④ 受託者=受益者(※)の状態が1年間継続したとき ⑤ 受託者が欠け、一年間新受託者が就任しない場合 ⑥ 信託行為において定めた事由が生じたとき |
以上のとおり家族信託をいつ、どのように終了させるのかはケースに応じます。
家族信託をご検討の方は、その目的、当事者同士の関係、信託財産の構成など、お客様に応じてご相談・提案させて頂きます。
初回相談・費用見積は無料で承っております。
家族信託を利用して何ができるのか
家族信託の利用にあたって
家族信託という制度を利用しようと考えている方は、その事情や最終的に何をしたいのかなどによって、さまざまなパターンが存在します。
内容によっては、家族信託を利用しなくても、他の制度で対応することもあり得ますが、ここでは家族信託でよく利用される目的について説明していきます。
- 認知症対策
不動産の所有している方が高齢となり、今後判断能力が低下したときなどに備えて家族信託を利用するケースです。
所有者が認知症に万一なった際には、その不動産を処分したり、賃貸に出すということがそのままではできなくなってしまいます。事情によっては、施設への入所費用、介護費用、入院費用などを捻出するために、ご自宅を売却したいのにできないという事態にも起きてしまうかもしれません。
そのような場合に、現在の不動産の所有者を委託者兼受益者とすることで、本人が判断能力が喪失した場合に信頼できる受託者の権限により、その不動産を処分し、受益者のための費用として使用することも可能となります。
ただし、受託者一人にその権限を一任すると財産処分についての権限が大きくなりすぎるために、受託者を監督する信託監督人や受益者代理人を置くなどの措置も検討することはできます。
- 遺産分割対策
家族信託に組み込んだ信託財産は、民法で定めた相続財産とはなりません。
よって、法定相続人同士の遺産分割協議を要することもなく、相続人の中に前妻との間の子や行方不明者がいる場合でも、信託終了後には信託契約で定めた帰属権利者に残余財産として帰属されます。ただし、遺留分に抵触することもありますので、その点を考慮した上で、信託財産を決めることも必要です。
- 数次相続対策
遺言では、自分が亡き後の財産の承継先までしか決めることはできません。家族信託を利用することで、自分の亡き後は妻、妻亡き後は次男というように、次の世代までも財産の承継先を決めることもできます。先祖代々の土地を自身の直系の親族で代々守りたいようなときになど、自身の死後のことまでも対策をすることができます。
- 生前の財産管理対策
自分の長男に経営をそろそろ任せたいが株価評価が高くて、税金の問題などから現在は長男に自社株式を譲渡できないなど生前贈与では対策が難しいようなケースです。
株式を信託財産として組み入れることで、株式は後継者である長男に贈与されますが、自身は委託者として引き続き議決権を行使することができます。
また、税務上自身から受益者である長男に株式が贈与されたものとみなされ、贈与税の課税対象となりますが、業績不振による株価の低いタイミングで生前贈与することで相続税対策を図りつつ、円滑な事業承継を行うことができます
家族信託はこのようなケースだけに限りません。その方の事情などによって異なるオーダーメイド型設計となります。
家族信託をご検討されている方は当事務所へお気軽にご相談ください。
初回相談・費用見積は無料です。
不動産の売却を視野に入れた家族信託設計について
不動産を家族信託すると
不動産(自宅や収益アパート等)を家族信託契約において信託財産に組み入れることはもちろん出来ます。不動産を家族信託すると、信託不動産の名義は委託者(元の所有者)から受託者に変更されることになりますので、もし信託財産である不動産を売却するには受託者が売主となって手続きを進めていくことになります。
では、どういうケースで信託された不動産を売却することができるでしょうか。
信託不動産を売却するには
受託者名義に不動産の名義が変更されたからといって、受託者が売却を自由に行うことはできません。受託者が売却できるかの権限は信託契約の内容で決まります。具体的には、信託契約の中で受託者に不動産の管理・運用・処分などの権限を与えておくことが必要です。よって、受託者に不動産の処分権限が与えられていないときには、受託者の名義になっていても受託者は不動産を売却することができない、ということです。
そして、信託不動産を売却すると、信託財産は不動産から金銭(売却代金)に変換されることになります。
不動産の売却を視野に入れた家族信託設計
不動産の売却を視野に入れた家族信託で最も皆さんがご依頼される理由が、「親が認知症や判断能力が低下した後の不動産の処分に困るため」というものです。
今は親が元気でも将来的に高齢になり、判断能力が衰えてきてしまったときには、親が所有している不動産を売却することで病院・介護施設や有料老人ホームへの入所費・介護費用・医療費などの支払いに充てたいと考えることはあると思います。
このような場合には、不動産の所有者である親を委託者兼受益者、子を受託者とする信託契約を締結し、契約条項の中に受託者に不動産の処分の権限を与えておくことで、親が仮に認知症や判断能力が低下しても、受託者の権限で不動産を売却することが可能です。そして、不動産を売却すると売却代金が入りますが、その代金は金銭の信託財産として、親の施設費・医療費などとして利用することができます。
家族信託契約をしておかなくても、売却することは可能ですが、その場合には家庭裁判所への申立により成年後見人を就けた上で、更に自宅不動産の売却の場合には家庭裁判所の許可も必要となってきます。
せっかく買い手がいても時間や費用も相応にかかってしまい、売却自体も難しくなってしまうかもしれません。
不動産の売却を視野に入れた家族信託をご検討される際には、お気軽にご相談ください。
初回相談・費用見積は無料です。
受託者が死亡したとき等の注意点
家族信託と受託者
家族信託において、受託者は、委任者が信頼できる親族・知人などを選ぶケースが殆どかと思います。しかしながら、一般的に家族信託においては信託の引受けについては無報酬であったり、信託期間についても長期間拘束されることも予想され、受託者の負担は相応にかかります。
また、信託期間中に受託者の義務が疎かになったり、信託事務をこなすことができなくなったり、あるいは死亡したりすることも当然考えられるでしょう。このような事態になり、適切な受託者が得られない場合には、円滑な受託者業務の引き継ぎも困難となりますし、結果適任の受託者が得られず信託が終了してしまうこともあり得ます。
そうした恐れに処するために、家族信託においては当初の受託者のみならず、第2次以降の受託者についても規定を置いておくことで、一定の事由が生じた場合には後継受託者に業務を引き継ぐことができます。よって、信託期間が長期間に亘るケースなど、将来受託者が業務を遂行できない事態が生じる可能性がある家族信託においては、後継受託者についての規定を定めておく方がよいでしょう。
後継受託者に引継ぐ際の問題点
信託契約書に後継受託者の予定者や選定方法、その要件などを定めておけば、一定事由が生じることで後継受託者に業務を引継がせること自体は可能です。ただし、実務的な問題として以下のような点が考えられます。
- 信託財産が預貯金の場合
受託者が預金していた口座などを新受託者に移そうとしても、金融機関に対して引き出しなどの手続きができるのは、旧受託者です。旧受託者が成年被後見人や被保佐人であれば、引き出す方法もあるかもしれませんが、原則口座名義人しか手続きができないので、旧受託者の協力が必須となってきます。
- 信託財産が不動産の場合
信託財産が不動産の場合には、不動産の登記名義人は委託者から受託者に移ります。受託者が変更される場合には、原則旧受託者と新受託者の共同申請にて移転登記を行うこととなります。旧受託者に協力して貰えれば勿論問題はありませんが、万一行方不明になったり、体調を崩して意識が脆弱な場合などは、速やかに新受託者に信託財産の移転登記を行うことは困難になってしまいます。
上記のようなケース以外でも、受託者が死亡した場合にも信託財産の引継ぎはスムーズには行かないこともあるでしょう。
このような問題を避けるために、法人を受託者としておくことができます。法人は個人と違い、死亡や意思能力の問題には影響されません。親族などで一般社団法人を設立し、法人の意思決定の方法の定めなどを信託目的が実現できるようにしておくことで、後継受託者の選定や引継ぎに関する問題を解決することができるでしょう。
家族信託に関するご相談やご質問があれば、お気軽にご相談ください。
メールや電話でも随時受け付けております。
遺言と家族信託の違いとは
遺言と家族信託の違い
遺言も家族信託も、財産の円滑な承継を目的としている点では似た制度です。しかしながら、どのように財産を管理・運用・承継したいのかによってどちらの制度を利用するのか、または両方の制度を利用するのがよいのか、考えておく必要はあります。
ここでは、遺言と家族信託の違いについていくつか説明していきます。
(1)効力発生時期の違い
遺言は遺言を書いた方が亡くなられた時からその効力が発生します。一方、家族信託は契約をした時からその効力を発生しますので、効力が発生する時期が異なります。
よって、遺言に記載した内容はあくまで亡くなった後の事であり、生前の財産管理等には対応できません。家族信託では契約をした時から効力が発生しますので、契約より財産を信託しておくことで、万一委託者が生きている間に判断能力が低下したとしても、受託者はその財産管理を継続することができます。
(2)財産承継先の柔軟性の違い
遺言では、財産を承継させる人間は自分の次の人しか指定することはできません。一方、家族信託では何代に渡っても財産を承継させる人(受益者)を指定することが可能です。
よって、家族信託でも信託した財産については、遺言書の代わりとなる機能もあるといえるでしょう。
例えば、「甲が死亡したら乙へ、乙が死亡したら丙へ」という旨の内容は、遺言では定めることができませんが、家族信託では可能です。
これによって家族信託では、遺言と違い、予め受益者を何代にも渡り、指定しておくことで自分の直系血族以外に財産が流れてしまうことを防ぐこともできます。
遺言と家族信託を両方利用した場合
では、遺言書も作成し、家族信託契約も締結していた場合には、どちらが優先されるのでしょうか?
遺言は、一般法である民法に基づく制度であり、家族信託は特別法である信託法に基づく制度です。特別法は一般法に優先しますので、この場合には特別法である家族信託が優先することとなります。
以下2つのケースでも、結論としては家族信託契約が優先します。
①遺言を作成した後に、家族信託契約をした場合
遺言は撤回することができ、遺言に抵触する行為をした場合には、その抵触した部分については撤回したものみなされます。
よって、遺言を作成した後に、家族信託契約をした場合にも、前にした遺言に抵触する部分については、家族信託契約が優先させるといえるでしょう。
②家族信託契約をした後に、遺言を作成した場合
家族信託契約によって、信託財産となったものは、委託者固有の財産から切り離されます。よって、遺言によって信託財産を記載しても信託財産は既に固有の信託財産として存在しているので、その部分については効力が発生しないことになります。結果として、こちらも家族信託契約が優先することとなります。
家族信託を利用する際の注意点とは?
家族信託を利用する際の注意点
家族信託という制度は現在注目度も増しており、当事務所にもお問合せをよく頂いております。
しかし、家族信託といっても決して万能な制度ではなく、利用者の目的によっては他の制度を利用した方が良いケースや組み合わせをしておいた方が良いケースもあります。
では、家族信託を利用する際の注意点とは何かを説明していきたいと思います。
(1)委託者の意思確認の重要性
家族信託のメリットとしては、契約内容の柔軟性が挙げられます。そのため、自由度も高くスキームの組成には創造力も必要とされます。委託者の希望に合致した信託を設定するよう委託者から慎重にヒアリングを行っておかないと、後々トラブルの元になってきます。また、不動産を信託財産とした場合には、不動産の名義が受託者に変わってしまうことから、不動産をとられてしまった等の不安が生まれることもあります。事前に委託者の意思確認は慎重に行うことは必須です。
特にひな形などを利用した安易な信託契約書の作成は注意しましょう。
(2)適切な受託者を用意できるか
家族信託において、受託者は委託者から財産を託され、その財産を管理・運用する信託事務を担う人で責任は非常に重いものとなります。
不動産を信託財産とした場合には、受託者は不動産について管理する義務もありますし、不動産に係る固定資産税等の納税義務も生じます。
万一、受託者が死亡した場合にも、信託は終了しません。受託者の地位は相続されませんので、信託行為において新受託者を定めていれば、その者が信託事務を引き継ぎます。また、信託行為において特段定めていなければ、原則受託者と受益者の同意により新受託者を選任する必要があります。なお、すでに委託者がいない場合には、受益者が単独で受託者を選任することもできます。
注意する点は、受託者が欠けたままの状態が1年間継続した時は、信託自体は終了してしまうという事です。信頼できる受託者を複数人指定しておくことは困難かもしれませんが、家族信託を利用する際には、以上のような受託者の責任の重大性や欠けた場合のリスクも考えておいた方が良いでしょう。
場合によっては、受託者(家族)の使い込み等の不祥事を起こさせないように監視するための、監督人をおくことも一つでしょう。
(3)相続人間の不公平感が生じる恐れがある
親が2人いる子どもの内1人を受託者として家族信託を利用した際には、他の子どもが何も知らない間に信託契約を進めてしまうこともできてしまいます。
受託者は財産に関する大きな権限を持つために、他方から見ると何か悪いことをしているのではないか、お金を使い込んでいるのではないか等の疑いがうまれ、家族間の争いに発展するようなことも考えられます。当事務所では家族信託を利用する前には、家族全員で話し合ってから進めていくことをお願いしております。
(4)遺留分への配慮
信託行為にも、民法の遺留分の規定は適用されます。現時点では、家族信託を利用した際の遺留分に関しての判例も少なく、どのような結論になっていくかの詳細は分かりませんが、いずれにしても、家族間の紛争を起こさないように、相続人分の遺留分を侵害しないように配慮した信託行為をする必要があります。
(5)信託期間が長期間になること
家族信託は、その目的や信託行為の内容によっては、非常に長期間にわたって続くものもあります。その間は受託者は信託契約の内容に拘束されますし、毎年受益者に対する信託財産の収支の報告書作成等の手間や労力も発生します。
また、信託期間内に当初の想定に反し、信託当事者が亡くなることもあります。そのため、信託当事者が亡くなった後の事も考慮した柔軟な設計を考える必要があります。
(6)損益通算ができない
家族信託をした不動産の中に収益不動産があり、当該不動産の損失がある場合でも、信託財産以外からの所得と損益通算することや損失の繰り越しをすることはできません。これは、信託契約を分けた場合でも同様の扱いとなりますので、収益不動産を信託財産とする場合には、特に税金面にも配慮した設計が必要です。
(7)節税対策にはならない
家族信託を利用することで不動産の名義も受託者に変更され、節税対策にもなるのではないかと考えられる方もおられるでしょう。家族信託自体には、相続税を節税する効果はありません。
不動産の名義は受託者に変更されるものの、受益権(財産権)は委託者の元にそのまま残るために、財産の評価額を下げることもできません。
万一、受益者に相続が発生したときは、受益権(財産権)は信託契約で定めた人や信託契約に定めがない場合には相続人に承継され、その時に相続税を納める必要があります。
(8)税務申告の手間がかかることがある
信託財産から発生する収益の額が年間3万円を超える場合には、信託計算書・信託計算書合計表を税務署に提出しなければなりません。また、信託財産から不動産所得がある場合には、不動産所得用の明細書の他に信託財産に関する明細書を別に作成して提出する必要もあります。
(9)専門家に依頼すると費用がかかる
当事務所でも家族信託には相応の報酬を頂いております。信託財産の価格などよっては、100万円前後かかってくるケースもあります。
この費用は他の遺言書作成や後見制度の利用と比べてみても、高く設定されています。
しかしながら、家族信託は当初のスキーム組成、契約書作成からその後の長期間にわたるサポートも費用に含んでおります。家族信託を利用することで不安を解消できたり、安心を得られる為の対価として考えて頂ければ幸いです。
家族信託は委託者含め当事者の意思を尊重しながら、きちんとした設計をしておけば非常に有効な制度です。
ただし、以上のような注意点もありますので、家族信託をご検討される際の参考としてください。
銀行預金を信託財産にするには
信託財産について
信託法上は、信託財産とすることができる財産の範囲については特に制限はありません。よって、銀行預金、不動産、株式等を信託財産にすることは可能です。
ただし、銀行預金については特に注意が必要です。
金融機関に預けているお金は、法律上「預貯金債権」とされており、金融機関との預金契約によって譲渡禁止とされています。金融機関の承諾がなければ、預金名義人以外の財産として取り扱うことはできないのです。
つまり、信託契約書に預金口座・預金債権を信託財産とする旨を記載しても、その契約書を金融機関の窓口に持ち込んで、口座の名義人を受託者に変える名義変更や受託者名義の信託専用口座への送金手続きは不可能なのです。
よって信託契約書の信託財産目録に記載すべき金銭としての資産は、「現金〇〇円」と記載するのが望ましいでしょう。
実務としては、預金を信託財産とする場合には以下の手順が考えられます。
①委託者名義の預金を一旦払い戻す
⇓
②委託者が当該預金を受託者に引き渡す
⇓
③※受託者名義の信託口口座か信託専用の口座に送金・預入する
※信託契約書を持参しても、金融機関で信託口口座を開設してくれる金融機関は現状殆どありませんので、実務的には受託者名義の専用口座を開設し、そちらに預入れすることが一般的です。
大事なことは、金銭としての資産は、外形上区別することができる状態で保管することです。ただし、受託者が先に亡くなったときには、受託者固有の財産とみなされてしまう恐れがありますので、注意も必要です。
以上のように、信託契約を締結しただけでは預金は委託者から受託者に移動されません。信託契約締結度速やかに、銀行窓口に行き、委託者から受託者の管理する専用口座に信託目録記載の現金額を実際に移動することが必要です。
家族信託と後見制度の違いとは
家族信託と後見制度との違い
当事務所でも家族信託の問い合わせを良く頂きますが、後見制度と混同されている方も多く、ご希望があった際には家族信託と後見制度共にご説明した上で納得・理解を頂くように努めております。各々の制度には共通する点及び相違する点もあり、互いに補完することで最も効果が出ることもあります。
それでは、以下に両制度の比較について記載していきたいと思います。
家族信託と後見制度の比較
家族信託 | 法定後見 | 任意後見 | |
効力発生時期 | 信託契約の定めによる | 家庭裁判所による後見開始審判確定後 | 家庭裁判所による任意後見監督人を選任審判確定後 |
本人の事理弁識能力の程度(判断能力など) |
十分にある |
欠けている場合(後見) 著しく不十分な場合(保佐) 不十分な場合(補助) |
十分にある(程度によっては、不十分である場合でも可) |
受託者・後見人等の選任方法 | 本人が決める | 家庭裁判所が選任 | 本人が決める |
財産管理の対象財産 | 信託行為の定めによる | 全財産 | 任意後見契約の定めによる |
財産管理の権限 | 信託行為の定めによる | 後見人などが包括的代理権及び取消権を有する | 任意後見契約の定めにより任意後人が代理権を有するが、取消権はない |
他人のための財産の利用 | 信託行為の定めによる | 基本的に不可 | 任意後見契約の定めによる |
身上監護権 | なし | あり | あり |
- 家族信託は信託契約の定めにより、契約行為により効力が発生するので当事者間で直ちに効力を発生させることも可能です。これに対し、後見制度については本人の判断能力の低下により家庭裁判所の審判が確定して初めて効力が発生するので、ある程度の時間がかかり、その間に財産が流失する可能性はあります。
- 家族信託及び任意後見制度は契約行為であるために、本人の判断能力は求められます。
- 家族信託及び任意後見制度では財産管理の対象を契約内容により定めることができるために、特定の財産を対象から外すことも可能です。しかしながら、法定後見制度は全財産が対象となり、特定の財産を対象から外すことなどはできません。
- 孫に対しての教育資金の贈与など他人のための財産の利用について、家族信託及び任意後見制度では契約に定めることにより可能となります。これに対し、法定後見制度では後見人は本人の財産の維持に努めなければならないために、他人のために財産を利用することはできません。
- 後見人は、家庭裁判所から付与された権限(代理権や取消権など)を用いて、本人の財産管理や身上保護に関する事務を行います。これにより、後見人は本人の金銭管理を行ったり、本人の施設入所・入退院の手続、介護保険サービスの申請や契約等の手続きなど、様々な諸手続や手配などを本人に代わって行うことができます。これに対して、家族信託では身上監護権はないために、施設入所・入退院の手続などを行うことはできません。
家族信託も後見制度と同様に一つの手段であり、当事務所ではお客様それぞれの状況・ニーズなどによって、どの制度を利用するのが最も良いのかを提案しながら一緒に解決をしていきたいと思っています。
検討されている方、お困りの方がおられれば、まずはご相談ください。
当事務所は、阪急「塚口」駅徒歩3分に位置しており、お仕事帰りや日中少し時間が空いた時などにでも是非ご相談ください。
初回相談・見積り作成は無料です。
高齢になった親の財産を保護するには
高齢者の財産保護について
高齢者の方が独り暮らしをしていて、やや判断能力が衰えてきたときなどは、ご本人含め家族も体調面はもとより財産保護についても心配なことが起きてくる可能性も増えてきます。訪問販売や電話により、高額な契約を押し付けられ詐欺に遭いそうなときなど、一人で対処できるか不安に思うこともあるでしょう。そのような場合に、財産の管理を信頼できる家族・親族に託すことはできるでしょうか。
- 検討内容:高齢者の方や判断能力が衰えてきた方の財産を保護する制度としては、「法定後見制度」「任意後見制度」がまずは考えられます。
法定後見制度は、実際に物忘れなど判断能力が低下してきたで、今後の財産管理などに不安がでてきた場合に、ご自身及び親族などにより家庭裁判所に申立てることにより始まります。具体的に判断能力が低下していることが前提となります。法定後見には判断能力の程度によって「後見」(判断が全くできない状態)「保佐」(判断が著しくできない状態)「補助」(判断ができないことがある状態)の3種類の制度が更にあり、ご本人の事情に応じて選べるようになっています。
ご本人が判断能力が少し落ち始めている程度であれば、「後見」ではなく「補助」の利用が考えられますが、「補助」の場合には本人に財産管理の権限は残されており、詐欺などの被害に遭う危険性は完全にはなくなりません。
一方、任意後見制度は、将来の判断能力が低下した場合に備え、ご自身で後見人を誰にし、その後見人にどういったことを任せるかなどを決めた上で、任意後見契約を結ぶことによって始まります。但し、任意後見はまだご自身に判断能力が十分ありますので、任意後見契約をしてもすぐには後見人の援助を必要としないでしょう。よって任意後見契約後に実際に判断能力が低下してから、家庭裁判所への申立てをして始めて後見人としての活動が始まることになります。また、任意後見制度は、受任者に任意後見契約に基づいた財産管理に関する権限を与えるだけであり、ご本人に財産管理の権限は残りますし、受任者に取消権も存在しません。こちらの制度でもご本人が詐欺に遭ったケースなどでは、対応しきれない部分が出てきます。
- 同制度の問題点:ランニングコストが相応にかかるケースがあります。
法定後見制度の場合には、後見人、保佐人、補助人に親族が選任されれば、特段報酬がかかるケースは少ないです。但し、裁判所の判断によって専門家が選任された場合には、ご本人の保有資産にもよりますが、ある程度の報酬が発生します。(月額2万円~5万円程度)
任意後見制度も同様であり、親族が任意後見人に就任しても、任意後見監督人には専門家が選任されるケースが多く、ご本人の保有資産にもよりますが、こちらも報酬が発生します。(月額1万円~3万円程度)
- その他の検討方法について:後見制度を利用せずとも、家族信託を利用する方法も考えられます。
ご本人の判断能力がしっかりしている内に、家族信託を利用することによって、信頼できる子や親族に受託者になってもらい、ご本人は財産管理の手間から解放されます。家族信託においては、裁判所の管理下にはおかれない為に、ご本人が希望する者を受託者として指定することができます。
今回のようなケースで家族信託を利用する場合のスキームとしては、以下のようなものが考えられます。
①信託の目的:ご本人の財産管理の負担をなくすこと、ご本人が安全かつ安心な生活を送れるようにすること など
②信託財産:金銭(預貯金)や不動産
③当事者:委託者⇒ご本人
受託者⇒ご本人が指定した親族
受益者⇒ご本人
④信託期間:信託終了の自由:ご本人が死亡するまで
税金についても、信託においては受託者ではなく受益者に課税されることになっていますので、委託者と受益者が同一人となっている場合には、信託の存続期間中には受益者に贈与税等の課税はかかりません。但し、信託終了時には、信託財産が法定相続人に承継されるために法定相続人に対しては相続税が課税されることがあります。
当事務所では、家族信託は遺言や成年後見制度等他の仕組みと同様に一つの手段として考えており、お客様各々の状況・ニーズ等を把握しながら、家族信託のような複雑に見える仕組みを使わなくても解決できるような場合には、他の方法もご提示しながら最善の解決策を提供できる様に努めておりますので、ご不安なことがあれば気軽にご相談ください。
当事務所は、阪急「塚口」駅徒歩3分に位置しており、お仕事帰りや日中少し時間が空いた時などにでも是非ご相談ください。
初回相談・見積り作成は無料です。
« Older Entries